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山口地方裁判所 昭和38年(行)7号 判決 1965年4月12日

原告 有限会社 カトウ運動具店

被告 宇部税務署長 外一名

訴訟代理人 鴨井考之 外六名

主文

原告の請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、請求の原因(一)乃至(四)項の事実及び(五)項の事実中訴外英秋が原告会社の出資者でなく、昭和三五、三六年度中その役員としての登記のなかつたこと、代表者秀夫の同族関係者であることは、当事者間に争いがない。

二、そこでまで、本件各更正等処分の通知書の附記理由の適法性について判断する。

青色申告制度の趣旨に照らすと、法人税法三二条後段の規定により要求される青色申告に対する更正乃至再正通知書の附記理由の記載の程度は申告者にその記載自体からして更正乃至再更正処分の理由を理解できる程度にその具体的根拠を明らかに記載することを要すると解するのが相当である。

本件についてこれを見るに、前示認定の当事者間に争いのない請求原因(二)項摘示の各通知書附記理由においては、原告会社の出資者でもなくその役員としての登記もない秀明こと英秋に支給した賞与が、なぜ役員賞与とみなされるか、その具体的根拠の説明は、未だ十分明瞭ではない。従つて、本件各更正等処分は、その通知書の附記理由が不備であるから違法といわざるを得ない。

しかし、更正通知書の附記理由であつたとしても、当該更正処分とこれについての再調査請求及び審査請求は併せて、行政機関の内部における租税額確定に至るまでの一連の手続と考えることができるから、これに対する決定において更正処分の理由の具体的根拠が明確に示されたときとは、更正処分における附記理由不備の違法は治癒されたもの解するのが相当である。そして前示認定の当事者間に争いのない事実及び成立に争いのない甲第二号証によれば、本件各更正等処分に対する再調査の請求棄却通知書及び審査請求に対する裁決書謄本又は決定通知書には、原告の従業員秀明こと加藤英秋は同族会社と認められる原告の社員加藤秀夫の同族関係者でありかつ会社の経営に従事しているから、法人税法施行規則一〇条の三の五項にいう役員(いわゆる「みなす役員」)に該当するので、同人に支給した賞与を損金に計上することはできない旨が記載されているのである。これによつてみれば、原処分たる本件各更正等処分の同人に対する賞与がなぜ役員賞与とみなされるかその理由は、具体的根拠を挙げて明らかにされたものと認むべきである。しからば、これによつて右各更正等処分における附記理由不備の違法は治癒されたものといわなければならない。

三、そこで、英秋が税法上原告の役員に該当するとして損金計上の英秋の賞与を否認したことが、適法であるか否かにつき判断する。証人坂根尊、嘉屋邦男、加藤英秋(但し、加藤英秋の証言中役記信用しない部分は除く)の各証言を綜合すると、原告の取締役高明、同正は、いずれも別途職業を有し原告の業務には実質上全く関与せず、原告から何らの報酬も受けていず、単に個人企業的色彩の強い原告の当初の出資者として形式上取締役になつているに過ぎないこと、代表取締役秀夫も原告の業務に従事してはいるものの、すでに老令であつて、むしろ同人と生計を一にする次男英秋が原告の営業活動の中心となり、商品の仕入、販売並びに集金等の業務を担当していること、以上の事実が認められる。

証人加藤英秋は、原告の業務運営についての最終的裁断は秀夫がこれをしており、英秋は秀夫に助言をしているに過ぎない旨供述するが、前記証人坂根尊、嘉屋邦男の各証言と対比すると、にわかに措信できない。他に右認定に反する証拠はない。

してみれば、英秋は、形式上役員として登記されていず、原告に出資していなくても、原告の事業運営上の重要事項に参面しているというべきであるから、法人税法施行規則一〇条の三、五項に規定する「その他使用人以外の者で法人の経営に従事しているもの」に該当し、同人を税法上原告の役員として取扱うべきである。

そうすると、原告が英秋に支給した損金計上の賞与金一六〇、〇〇〇円は、同規則一〇条の四により損金に算入すべきでなく、原告の右計算を否認してなした被告の本件各更正等処分は、いずれも適法である。

四、以上見て来たとおり、被告の本件各更正等処分は、いずれも運法と目すべきものではないから、原告の本訴請求は全部理由がないものとして、葉却さるべきである。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平井哲雄 鈴木醇一 三枝一雄)

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